顎関節症における矯正治療とは(2)

顎関節症の原因は?

顎関節症の原因に関しては、次の3つの原因が挙げられます。

1.噛み合わせ(生まれつきや、成長の過程で悪くなった)に問題がある場合

実際は、ほとんどの人が年齢を重ねるうちに生理的に必ずしも理想的な下顎ではない位置で、噛み合わせが変化していきます。これは噛みぐせや、頬杖、強い噛み締めなどの顎にかかるストレスで、噛み合わせの位置やバランスが徐々にずれていくからです。

特に乳歯列や永久歯列の噛み合わせが完成する前後に強いストレスを受けると、噛み合わせに大きな影響が出ます。どちらの歯列であって一度誤った位置で噛み合わせが完成してしまうと、自然に元に戻ることはありません。また、大人になってからも、さまざまなストレスによって歯は移動し、噛み合わせは徐々にずれていきます。

このように噛み合わせのずれは徐々に引き起こされ、顎の位置のアンバランスと顎周囲の筋肉の不調和から始まった歪みは徐々に全身に広がり、体全体の歪みにつながってしまうのです。

2.顎を強くぶつけたり、外傷によるもの

スポーツや事故などで、強く顎を打ってしまったり、交通事故などで鞭打ちになったりしても、顎の関節軟骨が変形したり、異常な筋肉の緊張を引き起こし、噛み合わせの位置異常が起こり、1と同じような経過を一気にたどって顎関節症を発症します。

3.歯の治療によるもの

虫歯の治療や入れ歯、矯正治療などは、噛み合わせを変化させる可能性のある治療です。不用意な歯科治療は顎関節症を発症してしまうことも少なくありません。特に矯正治療は噛み合わせを大幅に変えてしまう可能性があるので、治療を受ける際には歯科医院選びを含め、十分な注意が必要です。

欧米人と日本人の顎関節症の比較

日本人には顎関節症が比較的多くみられます。とくにアジア人にはその傾向があり、矯正治療も欧米人より日本人(アジア人)のほうが難しい場合があります。これは人種によって骨格の形態が違うことが原因のひとつとして考えられます。

下のイラストは、左がアジア人、右が欧米人の一般的な頭蓋骨を上からみたものと側方から見た骨格の形態を示しています。

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アジア人は前後的に短頭の形態をしていますが、欧米人は前後に長い形態をしており、この違いが顎関節症の発症する率の違いを引き起こしていると考えられます。欧米人では顎に前後的なゆとりがありますが、アジア人のほうは、顎に前後的なゆとりがない分、下顎が後退位(後ろに下がった位置)をとりやすい傾向があります。顎が後ろに下がることは顎関節症を引き起こすもっとも大きな原因であり、短頭の骨格であることでアジア人が顎関節症を発症しやすいともいえます。

顎関節症の診断内容について

  1. 治療をされている部位や、虫歯、歯の根の病気、埋伏歯の有無(埋伏歯の状態の確認)
  2. 顎周囲、胸から肩、背中にかけての筋肉、後頭部周囲の筋肉の緊張状態の確認
  3. 顎や頭蓋骨、首などの骨格の形態や位置の確認
  4. レントゲン撮影を用いて舌や舌骨、咽頭や気道の位置や状態の確認
  5. 現在の噛み合わせの位置と生理的な噛み合わせの位置のズレを確認
  6. 歯に起こっている痛み、違和感のみならず、全身に起こっている全ての症状の確認

これらを診査したのち、実際の顎関節症の原因がどこにあるかを診断します。口腔内での主な原因は噛み合わせのずれによるものですが、付加的な要素として、根の病気や虫歯、埋伏歯などが症状を重くしている場合もあります。歯の不具合があると、顎周囲の筋肉の緊張を引き起こしやすいことから、これらの診査を通じて全身に起きている問題と、歯の疾患および噛み合わせのズレとにどのような関係があるかを診断します。

顎関節症と矯正治療の関係

顎関節症の治療の際、患者さんの症状や担当する先生の見解により、矯正治療を行わない場合もあります。

ですが、矯正治療や噛み合わせを変化させてしまう治療(ブリッジや前歯の治療)の影響で、顎関節症を発症する患者さんは増加傾向にあり、矯正治療や歯の治療を安心して行うためにも、顎関節症と噛み合わせとの関係を明らかにする必要があります。

また、すでに噛み合わせが悪いことで顎関節症を発症している患者さんの場合は、噛み合わせを大きく変化させることができる矯正治療が、顎関節症を改善するために必要となることがありますので、顎関節症と矯正治療には切っても切れない関係があるといってよいでしょう。

下の右の図は、噛み合わせが悪いために顎関節症を発症し、呼吸の質が悪くなってしまった患者さん(右側)の状態を示したイラストです。

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この場合、奥歯が低く、噛み合わせが深いことで、下顎の位置が後上方、反時計回りに回転し、それによって引き起こされた筋肉の緊張によって、「舌骨」と「舌」の位置が後下方に移動してしまっています。

また、「顎関節症における矯正治療とは(1) 」のところで説明したように顎から後頭部にかけての筋肉が緊張することによって、「環椎、軸椎(第一、第二頚椎)」が後ろに引かれ、頚椎の配列が逆カーブ(リバースネックと呼ばれる)なっている様子がわかります。これらの影響から、気道が狭くなり、呼吸がしにくくなっていることがイラストからわかります。噛み合わせが悪いと鼻のとおりが悪くなることがありますが、実際にはこのようなメカニズムで起きているわけです。

このような現象を考えると、顎関節症の画像診断には「パノラマレントゲン」だけでなく、「CTレントゲン撮影」を用いると、よりわかりやすい診断を行うことが出来るのです。

気道が狭くなると、「いびき」がひどくなったり、場合によっては「睡眠時無呼吸症候群」を発症したりします。「睡眠時無呼吸症候群」は「虚血性心疾患」や「脳血管疾患」と強い関係があることが知られており、噛み合わせが全身の疾患と関係しているかがわかるのです。

顎関節症の治療としての矯正治療とは?

顎関節症を発症している患者さんの治療には、矯正治療で改善することがあります。しかし、顎関節症の原因を矯正治療によって改善できる確証が無ければ、矯正治療を行うべきではありませんし、実際に顎関節症の患者さんを矯正治療で治療することは容易なことではありません。

下のイラストは、一例として噛み合わせが深く、顎が奥に入り顎関節症になってしまった患者さんの矯正治療で行うプロセスを示したものです。左が治療前の状態で顎関節の軟骨が前方にズレ、咬筋が緊張し、太く短くなっています。こうなったのは、奥歯の位置が低く、顎全体が後ろ上方に入ってしまっていることが原因です。そこで矯正治療で奥歯を高くし、顎を前下方に、イラストに向かって時計周りに回転させることによって、関節軟骨を正常な位置に戻しながら顎の位置を修正します。

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真ん中のイラストに示されるように上の奥歯を高くすることで、咬筋がストレッチされ、顎が時計回りに回転し本来の正しい顎の位置に戻り、顎も咬筋の緊張が取り除かれて形状が改善し、歯列が正常になった上に顎関節症も改善されます。このように矯正治療ではダイナミックに歯を移動させ、顎関節症を治療することが出来るのです。また、前述しました、矯正治療で顎関節症が引き起こされる例は、特に「抜歯矯正」を行われた症例で見かけることがあります。

はじめに述べましたように、アジア人は欧米人とは違った骨格を持っているため、顎の前後的なゆとりが無い上、奥歯が低位(低い)状態の人が多く、結果的に上下の歯列が前方に出た状態になりがちです。このような歯並びに不満を覚え、審美を求めて欧米人の歯並びがきれいなモデルのようにしようとすると、ほとんどの場合歯を抜いて矯正をすることが必要になります。

しかし、抜歯でできたスペースを埋める際、前歯が後ろへ下がるだけでなく奥歯も前方に移動しますので、全体的に噛み合わせは低くなり、顎関節症を発症しやすくなるのです。また歯を抜くことによって歯列は全体的に内側に入り、お口の中のアーチは狭くなります。すると、噛み合わせの高さが低くなることとあわせて、舌の入るスペースは治療前より狭くなり、舌が緊張して奥に入るようになり、結果的に呼吸の質へ影響がでてしまうのです。こういった理由から、審美を求めた矯正治療で抜歯矯正を行われた患者さんは、顎関節症の発症のリスクが高くなる可能性があります。

もちろん、全ての人が抜歯をしないで治療を行うことが出来るわけではありませんが、「健康のための矯正治療(顎関節症を発症しない矯正治療)」を受けることを考えるのであれば「出来るだけ抜歯をしない矯正治療」を選ぶことは重要といえるのです。

※治療結果は患者様によって個人差がございます。