第22回 成育歯科医療研究会大会2017

「みつめる、よりそう、よりそわれる」

成育歯科医療研究会大会は、山形県山形市にある山形県歯科医師会館で2017年9月7日(木)・8日(金)の2日間に渡り開催され、全国から多くの臨床医や研究医が参加されました。今回の大会テーマは「みつめる、よりそう、よりそわれる」です。患者さんの目線に立ち、生活レベルで支援する「成育歯科治療」について考えることを目的とし、5つのセクションに分かれ様々な大会プログラムの講演が行われました。

第22回成育歯科医療研究会大会について

成育歯科医療研究会大会は、平成8年に咬合誘導研究会として発足しました。

研究テーマである成育歯科医療は、これまでの専門領域である口腔衛生学、小児歯科学、矯正歯科学の専門知識を集結したものだけではなく、発達心理、言語病理、行政、教育など他の専門領域との連携が必要な医療体系と考えられています。個人の背景から生まれた障害も支援の対象となっていて、それぞれの患者さんの状況にあった支援が求められています。治療は手段に過ぎず、「楽しく元気な暮らしや育ち」を目的とし、患者さんへの支援に努めています。

下記に、本学会で特に注目を集めたプログラムの一部をご紹介致します。

注目を集めたプログラム

プレセミナー 「みつめる」もうひとつのスクリーニング

一日目最初のプログラムは、「みつめる」もうひとつのスクリーニングと題して、6人のドクターにより、3つのセッションである「口腔機能をみつめること」、「話す力をみつめること」、「生活をみつめること」を、様々な症例を用いながら講演されました。

■演目:「口腔機能をみつめる」
(講演者:犬束 信一先生、常盤 肇先生)

講演者は、患者さんと同じ時間軸に立ち、口腔機能を育む・訓練するという成育治療についてお話されました。患者さんを検査すると、心身の状態や私生活の行動が見えてきます。歯の疾病が全身機能に影響を及ぼすように、不正咬合の背景にはそういった個人の生活背景から培われる口腔機能(咀嚼・嚥下・発音・呼吸。習癖等)の営みが関わってくると述べられていました。 また口腔機能とは、育むもの・学習するものであり、大人になってからだとその成育が難しい為、乳幼児期からの口腔管理の重要性について強調されました。

「口腔機能をみつめる」の公演の様子

■演目:「話す力をみつめる」(講演者:梅村 正俊先生)

「話す力をみつめる」と題して、子供たちの構音問題を解決する治療が紹介されました。症例として、側音化構音・声門破裂音・語音弁別能力・認知の問題などが挙げられました。問題の深度に加えて、私生活や知的認知的社会性、成育歴や趣味特技等の基本的な事項の理解を通して、言語指導をしながら子供たちの生き方や人格形成に関わる取り組みが示されました。

■演目:「生活をみつめる」(講演者:金子 末子先生、渡辺 里香先生)

講演者は、歯科検診に加えて問診票を利用し、食生活アンケートやストレス度合いのチェックの必要性を訴え、子供たちの日常を聞き出すための工夫をされている事例を挙げお話されました。診断という客観的に量れるデータだけでなく、患者さんの暮らしをみつめ、共感するというもうひとつのスクリーニングを通して、養育者と一緒に、子供たちの心とからだを育てる療育について説明されました。

教育講演1(座長:近藤 俊先生、講演者:里見 優先生)

演題「生活機能をみつめる方法について」

教育講演では、数多くの症例を基に患者さんの生活背景を見つめる為の様々な取り組みに触れました。その手法として紹介されたのが、ビデオ撮影や家庭での食事・寝姿等の絵を描いてもらうことでした。8歳7カ月の女の子が取り上げられ、1番の歯が生えてこないという不正咬合の状態から検診に入り、生活環境の聞き取りで絵を描いてもらったところ、家庭の問題や心理状態を垣間見ることができたと述べられていました。矯正歯科治療に加えて、MFTや生活指導を連携させ、患者さんに寄り添いながら根本的なところから患者さんの健康を育てていこうとする先生方の思いが語られました。

ポスターセッション

臨床医や研究医から8つのポスターセッションがあり、研究結果の発表が行われました。0歳からの口腔育成アプローチ等、乳幼児期から始める成育歯科プログラムがとても印象的でした。主に栄養管理や咀嚼・嚥下の訓練といった基本的な生活を軸とした指導の重要性が語られていて、会場では自由に質問が飛び交い盛り上がっていました。

第22回成育歯科医療研究会大会に参加して

今回の学会に参加し、参加者全員が患者さん主体で考え、子供たちの心身の健康を本気で願い、向き合う姿がとても印象的でした。子供たちのちょっとした変化に気が付けば、たとえ歯科医療の範囲外であったとしても、紹介状を書いたり、アドバイスを与えたりと献身的に患者さんに尽くされる先生ばかりでした。先生方の患者さんに対しての熱い思いを世の中に伝えていくこと、より歯科医療の知識を普及させ、患者さんが自身の健康の為に積極的に検査や治療を行う習慣が身につくように情報を発信していきたいと思います。次回は、2018年に長崎で開催される予定です。

レポート:矯正歯科ネット運営部
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