矯正治療後の安定性を求めて 第72回日本矯正歯科学会大会

キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)・松本市総合体育館 会場入口
▲ キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)・松本市総合体育館 ▲ 会場入口

2013年10月7日(月)〜9日(水)の3日間、長野県松本市のキッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)・松本市総合体育館にて、第72回日本矯正歯科学会大会が開催されました。今回も、国内のみならず、海外からも多くの歯科医療関係者が集まりました。
参加者数は4,087人(2013年10月9日時点)と、日本矯正歯科学会の会員をはじめ、国内外の研究者や歯科医、歯科衛生士など、矯正歯科治療に従事する医療関係者が一同に集まりました。

※日本矯正歯科学会とは:歯科矯正学の進歩、発展を図ることを目的として、1926年10月に創立された学術組織です。 >> 詳細はコチラ


講演会場T(大ホール)

「矯正治療後の安定性を求めて-リスク管理を踏まえて-」をメインテーマに講演が開催されました。矯正歯科治療後の安定性を高めることを目的に、治療中のリスク管理や、「歯科矯正用アンカースクリュー」の臨床における応用など幅広い視点から捉えた矯正治療に関するプログラムが組まれました。その一部をご紹介します。

【特別講演1】Maintaining a Health Masticatory System with Orthodontics
講演者:Jeffrey P Okeson先生

矯正治療を行う際に、TMD発症のリスクを最小にすることが、今学会のテーマでもあるリスク管理の課題の一つとして、TMD(顎関節症)の病因を含めた矯正治療について講演されました。TMDは咬合だけの問題ではなく、整形外科外傷やストレス、咬合など様々な要因の一つであるとことを述べられ、病因因子が分かって対応することでTMDは改善することが可能であることをお話されました。また、咬合だけがTMDの原因なら矯正治療の意味があると言及されました。

【特別講演3】Extractions, Retention, and Stability: The Search for Orthodontic Truth
講演者:Sheldon Peck先生

日本と世界の矯正治療の歴史を振り返り、有名な先生の紹介、過去10万年の人間の骨格の変化を確認しながら矯正歯科治療の抜歯、保定、安全性について講演されました。Sheldon Peck先生は、人間の顎のスペースは生物学的に見て歯の大きさより早く小さくなっていると述べられました。矯正で顎のスペースと歯のサイズを合わせることは必要であり、固定式保定については、歯周組織の問題が出る可能性があるので使わない方がよいと訴えられました。また、抜歯矯正は、個別の案件に応じて治療する選択肢の一つと述べられました。

講演会場U(中ホール) 【シンポジウム1】歯科界における矯正歯科の役割
座長:後藤 滋巳先生(本大会理事長)

矯正歯科に携わる大学、専門開業医、企業、学臨産を所轄する行政を交えて歯科分野における矯正歯科の専門性、他の歯科分野との関わり方について講演されました。厚生労働省の小椋 正之さんは「歯科界における矯正歯科の役割について」をテーマに、「歯科口腔保険の推進に関する法律」に規定されているとおり、医師と連携して歯科口腔保健に資するよう努めてほしいと述べられました。平成19年4月から、医師又は歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療従事者の専門性についても、制限付きで広告が認められるようになったことをお話されました。また、石川 博之先生(福岡歯科大学教授)は「大学における矯正歯科医の養成」について、現在、29大学31講座の矯正治療を行う診療科が基本研修機関、臨床研修機関として認定されていると述べられ、ここ10年間における、歯科医師の卒前教育、卒直後教育の変化、歯科医師の資質向上に向けた取り組みをお話されました。

【シンポジウム2】歯科矯正用アンカースクリューの臨床における応用と注意
座長:槇 宏太郎先生/宮澤 健先生

薬事承認を受けることができた「歯科矯正用アンカースクリュー」を安全に使用するため5名の先生が講演されました。Chung Chooyung先生は、顎関節症の要因を説明し、臼歯のアンカー治療中に痛みが増えるケースは少ないことを述べられ、歯科矯正用アンカースクリューを挿入することへの注意点や臨床例を解説しました。本吉 満先生は、アンカースクリューの動揺や脱落を防ぎ、成功率を向上させる方法について研究成果を発表されました。安定した埋入の注意点として歯骨への接触を避けることを解説し、安全でより確実な植立には、リスクファクターの検討が必要であり、リスクファクターの検討材料となるのは、骨の厚さと成功率の関係、歯根への接触(歯根への接触は安定性に影響する)、年齢との関係、性差、部位(CTによる検査が必要)であるとお話されました。

【口演】安全な矯正治療を求めて
講演者:松本 圭司先生(整美会矯正歯科クリニック
「矯正治療後30年以上経過した骨格性下顎前突症例の安定―CBCTによるsymphysisと下顎前歯歯軸の検証―」

術後37年経過した患者様の骨格性下顎前突症例を発表されました。3DCT画像の解析から下顎前歯の歯根吸収、根尖の皮質骨の逸脱はほとんど見られず正常な皮質骨に覆われていたと発表し、下顎前歯の位置づけを適正に行うことは、術後の長期安定に重要であると述べられました。

【スタッフ&ドクターセミナー】MFTの活用 
講演者:石野 由美子さん(二子玉川ガーデン矯正歯科
「口腔リハビリテーションとしてのMFTの活用ー表情筋訓練を取り入れた取り組みー」

口腔筋機能療法(MFT)の効果について発表されました。歯列に対する舌の内圧と外圧の関係には、筋肉のバランスを整えることで歯列を安定させることができるとお話されました。口腔機能異常を有する患者様に対して、歯科臨床におけるMFTを活用した口腔リハビリテーションや、MFTの応用の重要性を言及されました。


【JOSフォーラム基調講演】社会が求める歯科における専門医のあり方

講演者:中島 信也先生
専門医の定義として専門医とは広告であり標榜の問題とは別問題であると厚労省の見解を示されました。日本口腔インプラント学会における問題としてホームページの記載の問題と国民生活センターからの要望を紹介し、矯正歯科も同様の問題があるのではとの指摘されました。歯科矯正に関わる専門医制の問題として、1専門分野で一つの専門医にしてほしいとの厚労省の要望があるため、矯正3団体(日本矯正歯科学会、日本成人矯正歯科学会、日本矯正歯科協会)で歩み寄らなければ専門医認定は難しいとの見解を示しました。

・次回の開催について
第73回大会は、平成26年10月20日(月)〜22日(水)に幕張メッセで開催される予定です。


【学術・症例展示会場】

学術・症例展示会場では、日本矯正歯科学会の会員による研究内容・症例報告がパネルに展示されていました。先生方の臨床、研究の成果の発表の場となっており、多くの先生方が展示を見学していました。発表者の先生がいる展示については質問をしたり意見交換をしている姿が多く見られました。

【商社展示会場】
総合体育館の商業展示会場では、矯正治療の関連企業による商品展示が行われました。大会プログラムの中に、企業プレゼンテーションがあり、企業、商品紹介を積極的に行っていました。矯正歯科ネットもまた、ブースを出展し、多くの先生方にお立ち寄りいただきました。

矯正歯科治療の関連企業の展示ブース
▲ 矯正歯科治療の関連企業の展示ブース
矯正歯科ネット展示ブース
▲ 矯正歯科ネットも出展しました!

【スタッフ後記】

今回の学会に参加し、各講演共に質疑応答も積極的にされている先生方が目立ち、全体に活気に満ちた大会だったのが印象的でした。発表内容については、アンカースクリューがトレンドであることもあり、臨床を元にお話しされていた印象と、各発表者共にホームページの記載にわずかでも言及していることが興味深かったです。
矯正歯科ネットでも、矯正治療後の安定性を高めるために、矯正治療の正しい知識と新しい情報を常に発信し、患者様が安心して治療を受けられるよう、積極的に努めて参ります。

レポート:矯正歯科ネット運営部

※講演の発表内容については、当サイトにおいて必ずしも保証するものではございません。

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