監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
歯はきれいに並んでいるけど、上下の前歯が噛み合わなくて隙間が開いている。
それは開咬という不正咬合のひとつです。
開咬は顎変形症になってしまったり、歯へ強い負担がかかってしまうことも。
開口って何?問題点は?といった疑問を、エピソードを交えながら解説します!
公開日:2019/10/01 更新日:2021/09/09
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
目次
私、自分では歯並びはキレイな方だと思うんです。
ただ、前歯はしっかり噛んでなくて、前歯でめん類やハンバーガーなんかを噛み切った経験はないけど、日常の食生活でよく噛めないといったことはありません。
でも、知り合いの衛生士さんに、矯正をすすめられました。
私みたいな歯並びでも矯正やるんですか?
そういえば、ここ一ヶ月噛んだときに顎がカクカク言って耳の側を押すと痛いんです。
日常生活で困ったことはないというCさん。困ったことがなくても、矯正治療をする必要はあるのでしょうか?
Cさんのお口の中を見てみましょう。
たしかに、叢生(歯並びが悪い状態)ではありませんね。
しかし、奥歯は噛み合っているのに前歯は上下の歯の間に隙間があり、あたっていません。
このCさんのように、歯のどこか一部分が上下で接触していない状態を「開咬」といいます。
通常、奥歯が噛み合っていて前歯が噛み合わない「前歯部の開咬」と、前歯が接触していて奥歯が噛み合わない「奥歯の開咬」に分けられますが、Cさんの場合は前歯部開咬の状態です。
前歯が噛み合わない場合、食べ物を口に入れるときに噛み切ることが不可能だと思われます。
それ以外にも開咬には様々な問題点があるんです。
ヒトは固い物を噛む時などは約50kg程度の力を使っているといわれています。
しかしこれは、あくまでも歯の噛む面に対して縦方向に力が加わった条件のもとでのみ耐えることができるう力の大きさであり、噛む面に対して横や斜め方向に力がかかった場合、歯は力に対して非常に脆弱です。
食事中に間違って砂粒のような小さくて固い物を噛んでしまった経験はないでしょうか?
このとき驚くほど歯は痛みや違和感を感じます。
痛みを感じると反射的にヒトは口を閉じるようになっているのです。
口を閉じるために使われる筋肉の緊張は抑制され、その瞬間に物を噛む運動は中止されます。
小さい砂粒は歯に対して強い力をくわえるため、このまま噛み続けると歯や歯周組織を破壊してしまうおそれがあり、強い痛みで生体に警告するシステムがあるわけです。
通常横方向の力は前歯が受け持ってくれます。
とくに犬歯(糸切り歯)は、臼歯に比べると横方向の力に対して抵抗力があります。
開咬状態のCさんでは、前歯に接触がないため、結果として臼歯が横方向の力を余分に受け止めざるを得ない環境になってしまっています。
開咬の患者さんでは前歯は咬んでいないため、臼歯に力の負担がかかりやすい状態が続きます。
開咬の患者さんが歯周病になった場合、歯を支えている骨(歯槽骨)の破壊が早く進行してしまい、歯の寿命が短くなってしまうかもしれません。
開咬の患者さんは、顎関節症のリスクが高いといわれています。
特にCさんのように一番奥の臼歯しか噛み合せの接触がないような例では、噛む力が奥歯で負担できず、本来はあまり力がかからない顎関節に過剰な力がかかってしまう状況を作り出す可能性が高いです。
原則として、顎関節症のリスクを下げる(予防する)矯正治療はありませんが、開咬のケースについては矯正治療により改善が期待できるかもしれません。
審美性の問題を感じていなくても、噛み合わせの観点で治療の必要性が高いと言えるでしょう。
噛み合っていない歯はその歯の役割をほとんど果たせていないため、他の噛み合っている歯への力の負担が大きくなります。
他の歯を守るためにも、矯正治療を行う必要があります。