監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
歯の神経に感染する程の重度の虫歯にかかってしまうと「歯の神経を抜く」治療が検討される場合が多いです。重度の虫歯でなぜ歯の神経を抜く必要があるのでしょうか。そのあとの歯はどうなるのでしょうか。
こうした知識をもつと、重度の虫歯にかかった場合も、過度な不安を抱かずに治療に臨めるようになります。
公開日:2025/06/23
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
目次
・歯の神経を抜くことで強い痛みを軽減でき、虫歯による炎症進行を防げる
・神経を抜いた後の歯はもろくなり、変色や破折リスクが高まる
・歯の異常に気づきにくくなるため、治療後も定期的な検診が重要
歯の内側にある歯の神経(歯髄)や血管は、健康な歯を維持するための栄養を送る大切な役割を担っています。
一般的に歯の神経組織は「歯髄(しずい)」と呼ばれます。歯髄は歯の内部にある神経以外に血管、リンパ管も集合したもので、歯に栄養を送る機能をもっています。歯髄は歯と異なり、軟らかい組織です
歯に刺激が加わったときの感覚は、歯髄を介して脳に送られて感じます。虫歯の痛みやしみも、歯髄が生きていることによって自覚できます。歯の異常に早く気付けると、虫歯の早期発見・治療にもつながります。
歯に刺激が加わったときの感覚は、歯髄を介して脳に送られて感じます。虫歯の痛みやしみも、歯髄が生きていることによって自覚できます。歯の異常に早く気付けると、虫歯の早期発見・治療にもつながります。
細菌侵入を食い止める防衛機能(硬い象牙質の形成)があり、虫歯から歯を守る大切な役割を果たしています。
歯髄を抜くことで、健康や見た目などでもデメリットがあります。
歯髄を取ると歯への刺激が脳に伝達されなくなるため、虫歯による痛みもなくなります。それによって歯の異常に気づきにくくなり、虫歯が再び進行した場合も自覚しにくく、症状が広がるおそれがあります。
歯髄を取った歯は「失活歯」と呼ばれます。歯に栄養が供給されなくなるため、神経のある歯に比べるともろく割れやすくなると考えられています。
歯に栄養が行き届かなくなることにより、歯の潤いが失われて褐色になっていきます。口元の見た目が悪くなってコンプレックスに感じるおそれがあります。
虫歯による強い痛みも、歯髄を抜くことで軽減できる可能性があります。また、虫歯の拡大自体を止めることに繋がります。
歯髄を取るタイミングの多くは、虫歯による強い痛みが起きたときです。歯の神経を抜くことで歯への刺激が脳に伝達されなくなり、痛みが軽減されます。
歯の神経に虫歯が及ぶと、虫歯が大きく進行している状態です。それにもかかわらず放置していると、歯髄が通る歯の根っこの管(根管)に汚染が広がり、歯の根っこの先端にまで最終的に虫歯が進行し膿ができる可能性があります。
歯髄を取るときに根管治療とよばれる方法で根管組織に再び細菌が侵入しないように隙間なくお薬を詰め(充填され)ます。感染拡大が防げ、歯の根の病気も改善していきます。
歯の神経を取るケースはさまざまです。
歯の神経を抜く最大の目的が、虫歯による痛みを抑えることです。虫歯を治療せずにそのままにしていると、炎症が歯の内部から外部まで広がり、激しく強い痛みを覚えるようになります。
治療を受けないと歯の神経が死んで、一旦は痛みが引きますが、歯根(しこん)の先端に感染して膿み、再び痛みが出てきます。
こうした状態にまで悪化させないよう、痛み(炎症の拡大)を抑えるために必要となるのが、歯の神経を抜く根管治療です。歯科では、虫歯が進行している「C3」や「C4」で根管治療が検討され、汚染された歯髄を抜く治療が行われます。
知覚過敏は、歯肉の退縮で歯根が露出した状態などで冷たいものや熱いものがしみることを言います。市販の歯磨き剤には知覚過敏用のものもあり、歯科医院でも詰め物をするなどの対処を取ることができます。しかし、虫歯などで重度の知覚過敏が見られる場合もあり、その際は神経を取り除くことが検討されます。
一般的な知覚過敏で、しみる症状が見られるのは短時間です。一方、重度の場合、ズキズキとした痛みが続くなど、虫歯と勘違いするような症状が見られます。
ただし、痛みがずっと続く症状が知覚過敏によるものでないこともあります。例えば、銀歯を入れたところがだんだんズキズキするようになるケースは、銀歯の下で虫歯が進行している可能性があります。
歯と骨の間には、歯根膜という組織があります。歯根膜は歯や歯を支える骨を噛む力から守るクッションのような役割をもっていますが、これに炎症が起きている状態を歯根膜炎(しこんまくえん)と言い、噛むと痛みを感じます。
歯根膜炎は、歯の神経の炎症が進行している状態などで起こります。また、きちんと根管治療をしても細菌を完全には取り切れず、歯根の先端に炎症が生じるケースがあります。
歯根膜炎がある場合、歯髄が死んでいる可能性があり、炎症拡大を防ぐためにもすぐに歯髄を抜く必要があります。
噛む力が原因で、歯に細かい亀裂が入ることがあります。細菌が亀裂から侵入して歯の内部で炎症を起こします。歯にヒビが入っても見た目ではわかりにくいことが多く、知覚過敏と勘違いする可能性もあります。
歯の神経を抜くことで痛みや炎症拡大を抑えられるメリットがある一方、痛みを感じなくなったために今後の歯の異常に気づきにくくなるデメリットがあります。
また、歯に栄養が供給されないことで歯の変色による見た目の影響もあり得ます。
虫歯の進行などにより、やむなく神経を抜いた場合、歯の寿命が短くなるとも言われています。治療後に定期検診を受けるようにして、健康状態を維持するようにしましょう。