れんさんの相談

カテゴリ:抜歯について

上1番の抜歯について

先日、レントゲンなど検査後の
診断結果のことでご相談です。

上1番の前歯2本の根本が通常よりかなり浅く
矯正すると根本はもっと浅くなり歯が抜けてしまう可能性があるとのことで
1番は抜歯し
2番が前歯になるように歯を動かしていくことを
勧められました。

抜いた前歯は、
動くまで人工的な歯で代替し、
前歯になる予定の2番は、
虫歯の時に使うもので幅を広くするとのことでした。

4番を抜歯すると思っていたので
まさか1番の前歯をなくすことはとても不安です。

1番を抜糸せざる得ない状況のためと
院長は言ってましたが、
この診断は正しいのでしょうか。

専門の皆様
恐れ入りますが、ご教示お願いいたします。

初めまして、マロニエ矯正歯科クリニックの栗田です。
ご質問にお答えいたします。

上1番(中切歯)を抜歯すると言われ、診断に疑問を感じていらっしゃるとのことですね。
抵抗あるお気持ちは大変よくわかりますが、稀に前歯抜きは行います。
治療が終わった瞬間だけでなく、一生単位で考えた時、前歯を処分すべきという判断になることがあります。

1番抜歯をする際のやり方については、質問文のとおりだと思います。
抜歯後に歯抜けにならないように、2番に仮歯を接着して見た目を維持します。
仮歯を削りながら前歯のスペースを閉鎖していき、スペースを閉じきります。
2番(側切歯)は1番と比べて小さいので、真ん中にあるとバランスが悪いため、大きくします。
質問文の虫歯に使うものというのは、おそらくコンポジットレジンと呼ばれる材料ですね。
コンポジットレジンで歯を大きくして仕上げる方法もありますが、見た目が完璧でないことと、
吸水膨張したり、変色したり、経年劣化で合わなくなっていきますので、定期的な補修が必要になります。
最も目立つ歯なので、矯正治療後にはセラミックを被せた方が見た目もよく、長持ちします。
ただ、セラミックは自費治療で高額となり、かつ歯を削るために歯の寿命を縮めてしまいます。
レジンで作るか、セラミックを被せるかは、担当の先生と相談すると良いでしょう。

1番抜きをすると、前歯が1・2・3ではなく、2・3・4と並びます。
2番については上記のような対処をしますが、3番4番についても適切な対処が必要になります。
3番については、尖った犬歯が前歯の隣に来ると見た目的に少し変になります。
なので、犬歯の尖端を削って2番っぽくする必要がありますし、幅も削って小さくする必要もあるかもしれません。
4番については、3番と形・大きさはさほど変わらないので、見た目の問題はありません。
しかし、4番は咬頭という山が二つあり、舌側咬頭が咬み合わせに干渉するかもしれないので、削る場合があります。
2番を大きくし、3番の先端を削って、4番の舌側咬頭を削れば、問題なく仕上げることが出来ます。
あえて1番抜歯を提案するような先生ですから、おそらく経験もあり、このような対処法も知っているはずです。

では、本当に1番を抜いていいのか、という話になります。
これは、逆に1番を残して矯正治療をした場合を考えてみましょう。
おそらく4番を抜歯し、オーソドックスに治療が完了することでしょう。
矯正治療は歯に力をかけ、破骨細胞(骨を壊す細胞)に歯槽骨を壊させて隙間を作り、歯を動かします。
この破骨細胞が、副作用で歯を支える歯槽骨を減らし、歯根を短くしてしまいます。
つまり矯正治療をすると、歯の骨に埋まっている部分が少なくなってしまいます。
深く埋まっている釘は安定し、浅い釘が簡単に抜けてしまうように、抜けやすい歯になってしまいます。
治療前の段階で著しく歯根が短い場合、治療後により歯根が短くなり、長持ちしない歯となるでしょう。
つまり、質問者様を4抜きで治療を終えると、寿命の短い前歯で今後生きていくことになります。
矯正治療後すぐに抜けなくても、他の歯よりも早く前歯を失うことになることが予想されます。
前歯を失ったなら、矯正治療後では隙間を埋める方法は無いので、インプラントかブリッジで歯を補うことになります。
いつか前歯が無くなって人工物を入れざるを得なくなるなら、いっそ矯正治療で処分してしまおう、という考えです。

抜歯矯正をするとき、なぜ4番抜歯になるのでしょうか。それは一番価値が低いとされる歯だからです。
6・7の大臼歯は大きく、咬む力を負担してくれるので大事な歯となりますし、
1・2の切歯は目立つ位置にあるので、見た目的にとても大切です。
3の犬歯はペアの無い貴重な歯で寿命も長く、咬み合わせ的に重要な役割があります。
消去法で4・5の小臼歯が一番価値が低く、前歯を引っ込めたり八重歯を治すうえで4番抜歯の方が都合が良いです。
ほとんどのケースで4番、次いで5番が抜歯されますが、例外もあるわけです。
つまり4番よりも価値が低い歯があれば、そちらを抜歯した方が良い、となります。
質問者様のケースがこれに当たるかもしれません。必要なら3や6を抜くこともあります。
歯根破折、骨性癒着(アンキローシス)、重度の根尖性歯周炎では絶対に抜歯しなければいけませんし、
歯根短小、失活歯、補綴歯、著しい歯肉退縮などは、将来を考えて抜歯すべき歯かもしれません。
すべて健康な歯であれば迷わず4番か5番抜歯ですが、残さず処分すべき歯があればそちらを抜歯します。

前歯を抜くことに関して、目立つし不安もあると思いますし、ネットを調べても前歯抜歯のケースはほぼないでしょう。
当院でもたまに1番抜歯を行いますが、0.5%未満の比率であり、かなりのレアケースです。
ただ、数百万人に一人の奇病にかかることもありますし、セオリー通りがすべてではありません。
車の運転中、赤信号であれば、ほとんどの人が停止するでしょう。
では、後ろから大津波が迫っているときに信号を守るでしょうか?
担当の先生が、1番抜歯せざるを得ないと言っているのは、質問者様がそのレアケースに該当するからです。
正直、わざわざ仮歯をつけたり、歯の形を調整するのは面倒なので、4番抜歯の方が歯科医師は楽です。
しかし、質問者様の一生を考え、なるべく多くの健康な歯を残すことを考えた時に、
大変な治療ではあるものの、前歯を抜いた方が質問者様のためになると、担当医は考えているのです。

前歯抜きは経験と技術と度胸が必要なので、選択しない先生の方が多いと思います。
ネットを調べたり、セカンドオピニオンなどでは4番抜歯と言われるでしょう。
正解か不正解かとなると、ちゃんと治れば正解で、治っていなければ不正解です。
4番抜歯も1番抜歯もそれぞれ正解で、選んだらそれぞれの正解が待っているだけです。
4番抜歯を行い、いずれ1番に歯を入れる道か、1番抜歯でなるべく歯を残す道か。
いろんな意見を聞いてみることも大事ですが、最も信頼できると思った先生に診てもらいましょう。
4番抜歯で治療した後で、1番抜歯にしておけばよかったと後悔しないにしましょう。
担当の先生は、通常では提案されない前歯抜きを提案してくれる良い先生だと思います。
それを踏まえて、前歯を抜くプランにするかどうかは、質問者様が決めましょう。
同じようなシチュエーションで、前歯抜きを選ぶ人もいれば、選ばない人もいるでしょう。
歯科医師はあくまでプランを提案するだけで、決めるのは質問者様です。

以上を、ご質問への回答といたします。よろしくお願いいたします。
  • れん(25歳 女性 )
  • 2023年05月10日19時45分
以前はご丁寧に回答してくださりありがとうございました。
すごくわかりやすく参考になりました。

結局上前歯の抜歯を決断し、
抜歯してから1ヶ月と少し経ちました。

疑問なのですが、
上前歯が出っ歯のため、抜歯して
口元の突出感が前より小さくなりましたが、
今度は下唇の方が若干上唇よりでていることと、
まだまだ上の口元の突出感があります。

歯茎からの後退をしないと
綺麗なEラインはできないのかなと思っております。

そこでアンカースクリュー という技法が
ネットで出てきたのですが、
前歯抜歯でもアンカースクリュー をすると、
口元がもっと下がると考えてよろしいでしょうか。

お忙しい中大変恐縮ですが、
ご教示お願いいたします。

※特定の歯科医院のURLの掲載はお断りしておりますため、一部内容を削除させていただきました。(運営部)


お返事致します。遅れて申し訳ありませんでした。

まだ口元が出ているということですが、まだ前歯が引っ込んでいないので引っ込みはしません。
矯正治療は、でこぼこを治す→犬歯を後退させる→前歯を後退させる→仕上げの順番で治療が進んでいきます。
抜歯したばかりということは、まだでこぼこを治す過程なので前歯は後退していません。
矯正治療を行い、前歯が引っ込んだなと実感出来るのは、治療開始して2年くらい経ってからです。
最初にでこぼこが治り、最後に出っ歯が治るのが矯正治療です。
なので、治療開始して間もないうちに口元が引っ込まないと感じるのは早計です。
おそらく表側矯正と思われますが、ブラケットの厚みの分、口元も出ているはずです。

アンカースクリューを使えば前歯が下がる、というのは正解のようで正確ではありません。
アンカースクリューというのは、加強固定(奥歯が前に移動しないように抑えること)の装置の一種です。
抜歯したスペースは通常はパワーチェーンというゴムのチェーンを引っ掛けてスペースを閉鎖します。
伸ばして引っ掛けたパワーチェーンが縮もうとして、その力で歯が動きます。
前歯と奥歯で引き合うと、前歯も下がりますが、奥歯も前に移動してしまいます。
奥歯が前に移動すると、抜歯スペースが減り、前歯の後退量が減ってしまいます。
つまり、前歯をたくさん引っ込めるためには、奥歯を前に移動させないように工夫する必要があります。
アンカースクリューを使用すると、アンカースクリューと前歯にパワーチェーンをかけることになります。
前歯には後退する力がかかりますが、奥歯が前に移動する力はかからないので、最大限に前歯が下がります。
なので、前歯をいっぱい下げたい時はアンカースクリューを使用する矯正歯科医師は多いと思います。

ただ、質問者様のケースでは、アンカースクリューの使用はあまり意味がありません。
前歯を抜き、そのスペースを閉じようとする動きは、ほとんど奥歯を前方移動させません。
なので、前歯抜きの方ではアンカースクリューを使用しても前歯を引っ込める量は変わらないでしょう。

また、顎の骨の問題で、上顎骨が前方位にある場合、多少は引っ込みますが、骨の基底部の後退は生じません。
これはアンカースクリューを使用するかどうかには関係はありません。
前歯は引っ込んで、唇は引っ込みますが、鼻の直下あたりの上唇上部はほとんど後退しないでしょう。
矯正治療というのはあくまで前歯を前後に動かすことによる多少の唇の変化が生じているに過ぎず、
顔立ち全体が大幅に変わることはありません。
骨格・筋肉・脂肪・皮膚が変化するはずがなく、患者さんが生まれ持った顔の中で唇が多少移動しているだけです。
矯正治療は咬み合わせを改善するための医療行為であり、見た目の変化は副作用です。
整形のような変化を期待するのであれば、整形した方がいいです。

実際の歯の動きや口元の変化は、担当の先生が診断時に説明しているのではないでしょうか。
治療を開始している以上、治療に関する具体的なお話は、担当医とよく話し合うようにしましょう。
すでにゴール設定は決まっているので、ネットで色々調べるよりも担当医と話す方が正確で早いです。
また、抜歯してる段階で治療をやめることも出来ませんから、治療結果を受け入れるようにしましょう。
質問者様の治療が適切に終了することをお祈り致します。

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